【放浪恋愛】まりなの日記

【かなしいお別れ③】

4月26日・雨

今日、三本松から笠置さんの奥さまと長女さんが大阪に来られて、笠置さんと婿さんの葬式を執り行いました。

葬儀は、大阪池田市内にある葬祭会館で静かに挙行されました。

家族以外の参列者は、アタシひとりだけでありました。

黒の和装の喪服姿の笠置さんの奥さまと長女さんは終始声をつまらせておいおいおいおいと泣いてばかりいました。

どういうわけなのか、アタシは涙ひとつもこぼすことができんかった…

葬儀のあと、街の郊外にある斎場(火葬場)へ行きました。

笠置さんと婿さんは、煙突の煙と共に天に召されて旅立って行きました。

雨が降りしきる中、アタシは斎場の外でメンソールをくゆらせていた…

その時に、笠置さんの長女さんがアタシのもとにやって来て、アタシにこう言いました。

「まりなさん…アタシと母は、父とダンナの初七日が終わったら、三本松を出ることにしました。」
「家を…売るの?」
「ええ…三本松の家は…もともと父の無鉄砲とわがままが原因で…ローンが払えなくなってしまったのです…それで…」
「手離すのね。」
「はい。」
「行くあては…あるの?」
「行くあては…板野郡(徳島県)にある遠い親戚を頼ることにしました。」
「そう…親戚を頼ることに…したのね…」

アタシは、あいまいな受け答えで笠置さんの奧さんと長女さんに言うた…

一時間後、笠置さんの奥さまと長女さんと別れたアタシは、雨の中をJR川西池田駅に向かって歩いていた…

アタシは、さびしげな声で村下孝蔵さんの作詩作曲の歌で『挽歌』を繰り返して歌っていた…

アタシはこの時、どうして笠置さんの家族と地域の勤労青少年ホームの会員さんたちとひどいもめ事を起こしてしまったことを思い出していたので、歩く足が止まってしまった…

そして、その場に座り込んでしまったあと、震える声で泣いていた…
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