幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
20章:夫婦の形
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 昔から自分には、感情というものが欠落していると思っていた。
 いつだって、喜怒哀楽がはっきりせず、気持ちを抑えることが当たり前になっていて、本当の自分の感情がどれなのか、自分でもわからなくなっていたのだ。

 そして、僕は、自分の両親が死んだあの日も泣かなかった。
 なのに、僕の代わりに泣きじゃくっていたのは、近所に住んでいた少女だった。

 それから不思議と、僕に転機が訪れるたび、僕の心を、まるで当たり前のように救ってきたのは、今、目の前にいる彼女だ。

 それに気づいていしまうと、僕は泥沼のように彼女にはまり、彼女のことを追いかけ続けた。
 好きだと言葉にして伝え、態度で示し続けた。彼女に対しては自分の気持ちを抑えることはしなかった。

 これまでの自分への、両親への償いのように……彼女に手を伸ばし続けた。
 だけど、彼女は簡単にその手を握り返してくれることは無かった。


 ただ、そうしていると、時々すごく大きな不安の波が押し寄せた。

―――彼女が、自分の気持ちに応えてくれることなんてあるのだろうか。

 彼女がこの手を握ってくれなければ、自分は一生一人かもしれない。
 彼女と一緒にいるだけで、その顔を見るだけで幸せで、自分の幸せを使い果たしてしまっても、それでもいいと思った。彼女と一緒であれば不幸でもいいと思っていた。

 それほど、彼女のことだけは諦めたくない。
 もし自分が一生不幸でも、自分は彼女の近くにいたいと思ったのだ。

「諦めないでよかった……」

 そうつぶやいて、自分の胸の中で寝息を立てている彼女の髪をなでる。

 その感動と幸せと、幸せすぎることへの一抹の不安が、外で降り始めた雨のように、1滴ずつ胸の中にたまっていくような感覚があり、僕はその日、その感覚を逃すのが惜しくて一秒も眠ることができなかった。

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