幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
連れていかれたのは藤森先生の研究室。
入るのは初めてだが、机の上が汚いのは、医局と変わらない。片づけたい衝動に駆られるが、今はそんなことをしている時ではない。
藤森先生は、私を招き入れると、にこりと笑って、パソコンで一通のメールを私に見せた。
英語で書かれているメールが何人かの先生に転送されたものだった。全容はわからないが、そこには、多田医学賞受賞者が学内で出たことと、受賞者の名前―――佐伯健一郎、と記されていた。全体への公開は年始だということも書かれていた。
(なにこれ……)
藤森先生は私を見てクスリと笑う。
「やっぱり知らなかったんだ。健一郎ね、すごいよ。これからまた忙しくなる」
確かに、健一郎はその手の話を私にはしない。
私だって、もし健一郎からそんなことを話されてもピンとこないし、最近までは健一郎の仕事にだって興味もなかった。それに私には、その本当の意味も分からない。
(健一郎は私に言わないのはきっと……そういうことをわかっているからだ)
私に言っても仕方ないと、そう思っているんだろう。
私は思わず唇をかむ。
「じゃあもちろん、ホプキンス大学から声もかかってることも知らないんだよね?」
「それは、少し聞きました。でも健一郎がどうしようとしてるのかは聞いてません」
その大学は、私でも知っている医学会では有名なアメリカの大学だ。
すると藤森先生は言う。
「断るはずないよ、そんなすごい話。普通の医者ならね」