幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 何の意図があってこの話を私にしているのかわからないが……。
 私はそれを聞いて、やっぱり健一郎ってすごい人だったのか、と、なんだか現実味もなくぼんやりと思っていた。

 藤森先生はまじめな顔になったかと思うと、私の眼をじっと見据える。

「君は健一郎を支えるだけの度量があるの?」
 そう言われてどきりとした。私は言葉に詰まる。

 私には、その度量なんてない。全然ない。
 知識もなければ、生活面では健一郎に支えられていることの方が多くて、完全におんぶにだっこの状態だ。

 だからこそ、それがわかっていて、健一郎は私に何も言わずにいるのかもしれない。
 そう思うと、歯を食いしばった。

 私は健一郎に頼まれて結婚したと思っていた。でも、結局、それは彼の将来の可能性をつぶす選択だったのではないか。
 文句を言っていた看護師たち、藤森先生の言葉……すべてが塊になって頭の中で反響する。

(なんだろう、この気持ち。泣きそう……)

 そんな私の顔を真剣に見ていた藤森先生が、
「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだけど」
 突然、私の顔に自分の顔を近づけてくる。

 私は思わず藤森先生の顔をぐっと押した。

「ちょ、なにしてんですか!」
「いや、ちょっと隙があったからキスでもしようかと。落ち着くかなって思って」
「落ち着くはずないでしょう!」

 本当に、この先生は、意味が分からない。
 わかるのはいつもタイミングがおかしいことと、倫理観というものは一ミリも持ち合わせていないらしいことだ。
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