幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
寝不足もあり、朝から最悪の気分だったその日。
本橋研究室で仕事をしていると、真壁くんが研究室にやってきた。
真壁くんの顔を見てほっとしている自分がいる。
「ちょっといい? 聞きたいことがあるんだけど」
「うん。なに?」
「海外からの学会の旅費のことなんだけど……」
正直、英語が苦手な私では対応できない案件を真壁くんがしてくれているのでかなり助かっている。細かい打ち合わせなど、真壁くんは研修医とは思えないほど、よくしてくれていた。
「あぁ、この先生は、こっちで旅費もちだから、経費は入力しておくよ」
私が言うと、真壁くんは、
「ありがとう、助かる」と笑う。
(あの頭の中でおかしなことを考えている変態とは大違いだ……)
そう思って泣きそうになる。
真壁くんは絶対にあんな変なこと言わないんだろうな……。
清廉潔白で、そのうち、洗剤や漂白剤のCMに出てきてもおかしくないさわやかさだもん。
(昔の私は、そんな真壁くんの事……)
私がそんなことをぼんやりと考えていると、真壁くんは私の顔を覗き込む。
「どうした? 三波。残業続いているのか?」
「いや……真壁くんこそ、大変じゃない? 健一郎にいじめられてない?」
「大丈夫。仕事の時は、まじめな人だし。指導も真剣にしてくれてる」
『仕事の時は』と聞いて吹き出しそうになる。
(そうだよね、基本的に変だもんね……。家ではもっと変なんだよ? 仕事の時だけでもまじめでよかったよ……)
よかった、と私が笑うと、真壁くんは急にまじめな顔になって、
「で、思ったよ。お前が佐伯先生を選んだわけがわかった」
と言った。
突然の真壁くんの言葉に、私はきょとんとなる。
そして、その意味がやっと理解できると、それを全否定しようと「それは、ちがう!」と、叫びそうになった。
勝手に健一郎を結婚相手に選んだ理由を推測しないでほしい。
私が健一郎と結婚した理由は単なる消去法だ。そう思ったとき、
「あ! 噂の真壁!」
森下先生が研究室に入ってきた。
「えっと、循環器の森下先生……ですよね」
「お、さすが。私あまりかかわりないのによく知ってたわね」
森下先生はにやりと笑う。
「佐伯先生のときはきちんと事前にお顔と名前を見ていなくて失礼したので、ちゃんと全員の先生の顔と名前を覚えてようって思ったんです」
「うーん、中身までこうも好青年だとねーちょっとできすぎというか」
森下先生はそう言いながら微笑んでいて、もう真壁くんのことを認めているようだった。森下先生にも認めてもらえて、自分のことではないけど、私はなんだか誇らしかった。
森下先生は真壁くんの肩を叩くと、「よし! 今日一緒に飲みに行こう!」と突然言う。
「え?」
「三波ちゃんも一緒に!」
「別に俺は大丈夫ですけど……三波は大丈夫なのか? 佐伯先生……」
真壁くんがそう言って、私の顔を見る。
(確かに今、家にいても落ち着かないしちょうどいい……)
「うん。私もゆっくり話もしたいなって思ってたし」
私は頷く。それに結局私たちは再会してからもきちんと話せていない。
それもこれも、すべて健一郎のせいだけど……。
「そうよー! 久しぶりに再会したのに、こういう機会がないほうが不自然よ」
そう言って、森下先生は軽快に笑った。