幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 健一郎に『飲みに行って遅くなるしご飯いらない』とメールを打ち、3人で店に入り、乾杯をしてから2時間。
 話は、真壁くんの研修、森下先生の研修医時代、そして私たちの高校時代、など、多岐にわたった。

「それにしても、まだ佐伯先生とキスすらしてないって驚きよ」
 酔っ払った森下先生は、そんなことを言い出す。
「え……?」
 真壁くんは、驚いた顔で私を見た。

「ちょ、森下先生!」
「だって本当のことでしょう。いくら政略結婚で、『嫌なら指一本触れない』って言われたからって酷いわよー。真壁、どう思う?」
「それは……」
「ああ! もういいから他の話しましょう!」

 私は慌てて話を切り、他の話にする。そのうち真壁くんの口数が少なくなった。
 私も森下先生と飲みにいくのも久しぶりで、二人でも喜んで話していると、気づくと真壁くんがウトウトしていた。
 その姿がまるで高校時代に戻ったようで、すごくかわいいなと思ってしまう。

(男の人にかわいいは失礼か……)

 そう思ったところで森下先生を見ると、森下先生もそんな真壁くんを見て微笑んでいた。

「お酒弱かったのかしらねぇ」
「高校の時は飲みに行ったことなかったからよくわからなかったけど、そうかもしれません」
「まぁ、研修医って忙しいからねー。最近飲んでなかったのかも」

 森下先生が笑って真壁くんを見る。「あぁ、寝ててもイケメンって腹立つわね。顔に落書きでもしてやろうかしら」

 そう言って、本当にカバンの中からペンを出す。

「やめてあげてくださいよ!」
「冗談よ、冗談」

 けらけら、と笑う森下先生も、子どもみたいでかわいい。

 そんな時、私たちの席にひょっこり、年配で風格のある男性が顔を出した。

「森下先生?」
「椎名先生!? どうされたんですか」

 雰囲気的に落ち着いていると思ったけど、どうやら先生らしい。

「ここで飲んでんだよ。村橋や三浦も一緒。あとで、来たら? あ、お連れの方も一緒でも大丈夫だよ」
「えぇ、ありがとうございます。では遠慮なく」

 森下先生が答えると、椎名先生と呼ばれた先生は嬉しそうに笑う。
 椎名先生が立ち去った後、森下先生は、ごめん、と手を合わせた。

「大学の恩師なの。ここで抜けても大丈夫? 一緒に来る?」
「えーっと……私、真壁くん送っていくので」

 森下先生と恩師との話を邪魔するのもなんだし、本当に疲れている真壁くんのことも早く家に帰してあげたくて私はそう言う。森下先生は頷くと、少し考えて、

「んーっと……佐伯先生には最後まで私も一緒にいたことにしといて。なんとなく怖そうだから」
と言った。

(さすが健一郎のことをよく知っているだけある……真壁くんのことイジメられても困るし……)

 まぁ、今日は、打ち合わせで他大学にでているので、ここに顔を出すことはないのはわかっていたのだが。

「大丈夫ですよ。でもお言葉に甘えてそうさせてもらいますね」

 私は笑うと、お会計を済ませ、真壁くんの頬を叩いた。
 真壁くんは、んーっと小さくつぶやくと、うっすらと目を開ける。

「三波?」

 艶っぽくそう呼ばれてドキリとした。
 って、普通こういうシチュエーションでは、男子が女子にドキリとするんじゃないの? なんで逆?
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