幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
「んんっ……!」

 唇が重なって、キスをされていることに気づいた。
 そして、繰り返すように、何度も何度も角度を変えてキスをされ、私は訳も分からずに目をぎゅっと閉じる。
(どうしよう、こんなの思ってたキスと全然違う!)
 次の瞬間、口内にぬるりとした感触を感じる。顔がさらにぐんと熱くなって、健一郎の舌が口内を這いまわっていることに気づいたときには、健一郎を押す手に最大限の力を込めた。
 しかし、健一郎の動きは止まるどころか、激しくなっていく一方だ。意識が飛びそうになるほど、激しく、とまらない勢いに息もできなくなった。

 私は、健一郎の舌を噛んだ。思いっきり噛んでいた。
 健一郎はそれでやっと離れ、真顔のまま、口元についた血を自分の手の甲で拭く。

「な、な、な、な、なに考えてんのよ!」
「わかりますよ、あなたのことなら。あなたが今、僕のほうを見ていなかったことだって」

 私はその言葉に時が止まったように固まった。
 そんな私に、健一郎は続ける。「僕のことを見て、僕を拒否するなら、まったくかまいません。でも……そうでないなら、僕は許せない」

 そう言って、また顔を近づけてきた。
 またキスされる、と思って私は目を瞑る。

 しかし、健一郎はキスをしなかった。

 目をそっと開けると、健一郎がふっと笑う。

「少しは、期待しましたか?」
「す、するはずないでしょ! このド変態!」

 叫ぶと、健一郎が目の前でまた小さく笑った。
 その笑い方が今までと全然違って……まるでただの男の人のようだと思った。

 そして、健一郎は私の頭を優しくたたくと、「すみません、驚かせましたね」と言って、脱衣所を出ていった。
 私は出ていく健一郎の背中をぼんやりとみていた。

―――なんだったの……今のは……?
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