ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「泉質、違うみたい。もしかしたら、他のとこからも湧いてるのかな。温泉。すごいなあ……。」


気がつくと、イザヤは目を見開いて、私を凝視していた。

その意味がよくわからず、私は首を傾げた。



イザヤの瞳が優しくたわんだ。

「……何というか……そなたは、本当に……。」


それ以上は、言葉ではなく、笑いになってしまった。


イザヤは、お腹を抱え、声をあげて快活に笑った。



明るい笑い声に、私まで笑えてきた。


真冬の湖上で、素っ裸で2人して、何を大笑いしてるんだろうと思うと、ますます笑えて困った。




しばらくしてから、ようやくイザヤの笑いかおさまった。


目尻ににじんだ涙を指で払いながら、イザヤが言った。

「我が家は代々この湖を所有してきたし、私ほどではなくとも、先祖は皆、儀式のためにオースタ島にも渡ってきた。この湖のことは、私たちが一番よく知っている……というより、私たち以外誰も知り得ないのに、そなたは、我々一族の知らなかった湖底温泉を発見した。しかも2つも、だ。」


「……いや、たまたまでしょ。……てか、イザヤの一族以外のひとも入ってるやん。魚捕ったり、泳いだり。……行ったことないけど、館の反対側の岸辺かて、人、いるでしょ。……イザヤが知らないだけで、イザヤたちより湖に詳しい人なんか、なんぼでもいると思うよ。」


領地だからって、海ほど大きな湖の湖岸全てを管理できてるはずがない。


私の言葉は、ますますイザヤの虚を突いたらしい。


「……反対側の岸辺……?」


まるで初めて聞いたかのような新鮮な反応に、私のほうが不安になった。


「え?ここ、湖よね?海じゃないよね?……向こう岸も、イザヤの領地なんでしょ?」


行ったことはないけど、湖のはるか向こうに山並みが見えるから、海ではないはずだ。

確か、ムードラ山脈とか言った気がする。



イザヤは苦笑した。

「領地ではあるが……人の住むところじゃないぞ。」


「……どういう意味で?」

いろんな理由を思い巡らしながら、聞いてみた。


「どうって……湖から険しい山までは暗い森林しかない。強風と湖の氾濫で作物もおちおち育てられぬと聞く。」


イザヤの説明に、却って私は可能性を感じた。


「……てことは、自然の恵みは豊かそう。氾濫は、治水工事で、何とかおさまるんじゃない?……このまま、オースタ島通り越して、渡ってみようか?」
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