ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
私の提案に、イザヤの頬がひくりと引きつった。


「あ、嘘です。ごめんなさい。……また、後日、よろしくです。」

慌ててそう言い直した。


イザヤは肩をすくめて、それからまた笑った。

「やれやれ。どうしても行きたいと言うのか。……変な奴だ。まあ、よい。我が領地であるうちに、連れて行ってやろう。」


……我が領地であるうちに……。


イザヤの言葉を看過できなかった。



「……やっぱり、領地を……かなり、失うことに……なりそう?」



イザヤは、そっと私に毛布をくるんでくれた。

そして、おもむろに、オールを拾い上げながら答えてくれた。

「わからん。先のことは、何とも言えぬ。が、ティガが悪いようにはしないだろう。」


……うわぁ……全然安心できないわ、それ。



私は、脈動するイザヤの筋肉に見とれながら、つぶやいた。

「ティガは、この湖とオースタ島が欲しいわけだし……いずれは、やっぱ取り上げられちゃうよね……神殿、壊されちゃいそう……。」


私のいた世界でも、宗教が絡んだ征服は容赦ない。

宗教施設を焼き、書物を焼き、宗教家を殺害するのは当たり前のことだろう。



「……。」

イザヤは、返事しなかった。


ただ、きれいな顔をゆがめて、嘆息した。



***

しばらく沈黙が続いた。


硫黄臭のする湖底温泉が見えてきて、ようやくイザヤが口を開いた。

「今日は、先の話は、やめておこう。待ちに待った、2人きりの結婚式だろう?……まずは、沐浴だ。」


「うん。そうやね。今日だけは、忘れる。考えない。ハネムーンに溺れることにするわ。」

私は無理やり笑顔を作って見せた。


「今日だけじゃなく、明日も、明後日も、ずっとだ。そなたは心配しなくともよい。笑って、私だけ見ていろ。私が守ってやる。」

イザヤはそう言って、自分自身を鼓舞していた。



水を差すのはやめて、私は毛布をはだけて、素肌をぴたりとくっつけてイザヤに抱きついた。

さっきあんなに熱かったイザヤの身体は、冬の風に当たってすっかり冷たくなっていた。


……私にだけ毛布をかけてくれて……せめて、イザヤも服を着てからボートを漕げばいいのに……。



「……そなたは、温かいな……。」


イザヤのつぶやきに、涙がこみ上げてきた。


自分でも意味がよくわからない。

でも、私は……私は……



「……一緒に、もっと、あったまろう……。」

それだけしか言えなかった。
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