ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「……おそらく、イザヤどのは、ショックでしょうね。……ご先祖の御廟も……信仰対象も、なくなってしまって。……それでも、お誘いしたほうがよろしいですか?」



私は、肩をすくめて見せた。

「ティガの言うとおりやね。……やめとこう。また、暴れたら、……今度は穏便には済まへんかも。」





イザヤは今、鳥の伊邪耶とともに、カピトーリのお姉さんの邸宅に居候している。

全ての楽器をインペラータの国家に寄贈すると、かわりに、ティガが約束してくれた通り、建設中の楽器資料館の館長の椅子を与えられた。


現在はまだ建物ができてないが、膨大な楽器の調書をとったり、調律調音といったメンテナンスに明け暮れたり……とても充実した日々を送っているようだ。



……不満は、私と離れて暮らすことを余儀なくされていることだけ……。



いずれは、淋しさに慣れるのだろうか。

そして、もっと身近な他の誰かに心を移すのだろうか。



すごく不安だけど、それはイザヤも同じらしくて……。



引っ越して5日後、早馬でこの館を目指そうとしたらしい。

しかし旧国境の関所で止められ、……よせばいいのに、強行突破しようとしたとか。


……たぶん、蓄積された鬱屈が爆発したんやと思うけど……イザヤは暴れすぎたようだ。



結局、大人数で捕縛され謹慎処分を受け、謹慎が解かれて以後は護衛という名目の随行員がずっと監視しているらしい。


自分の首を自分で絞めてしまった……と、ドラコが教えてくれた。



現在はドラコの配慮で、音楽に造詣の深い兵士をイザヤに随行しているので、何となく揉めることもなくうまくいっているようだ。



そんな状態なので書状も全て検閲されている。


ドラコがたまに封印の切れてない書状を届けてくれるけど、イザヤの文章は音楽ほどに雄弁ではない。



結局、楽譜の送付状でしかない。


……何のメッセージも記されてない楽譜に想いを託してくれてるんだろうなあ……とは思うんだけど……悲しいかな、私にそれを読み取り表現するスキルはない。



そもそも楽器も全部インペラータに寄付したから、演奏できない。


五線譜に何か暗号でも隠されてるんだろうか?


暇さえあれば音符をたどるのだが、やっぱり何もわからない。



ただ時間が、日々が流れてゆくばかり……。 


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