ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
ティガはにっこり笑った。

「だから効果的なのですよ。シーシアさまにリタと子供のことを頼まれたら、ドラコは断れませんし、生涯2人を守るでしょう?……ショックは、癒えます。人の気持ちは、移ろうものです。」


「ふーん?リタには過保護やのに、ドラコには厳しいのね。」


他人事のようにそう揶揄したら、ティガは真面目な顔で付け加えた。


「まいらのことも心配ですよ。……しかし、離れてしまえば、いつか、恋はよき思い出となりましょう。」



……。


いまのは、私とイザヤのこと?



むくれて反論した。

「よけいなお世話!てか、私、しつこいから!初恋こじらせまくった粘着質、舐めんな。」


「……また言葉が乱れましたね。……初恋。父親ほど年の離れた聖職者のタカヨシでしたね。しかし、まいら、それでもあなたは、イザヤどのに恋をして結婚式のままごとまでやってのけたではありませんか。……あ、いえ、責めてませんよ。むしろ、逢えないひとを想い続けるより、よほど建設的だと思います。あなたはたくましい。至極当然のことです。」


ティガの静かな言葉が、ぐさぐさと胸に突き刺さった。


「……思い出に浸っていることが幸せなら、そのままそうしてればいいと思います。しかし、踏ん切りをつけて、一歩踏み出したら、そこに新しい楽しみも幸せもある。……そう思いませんか?……いえ、既に、あなたは、ご存じでしょう?」



痛いところをつかれて、私は……それ以上何も言えなくなってしまった。


自分自身のことはもちろんだけど……それって、イザヤも同じことなのかな……って。




押し黙ってしまった私を気遣ったらしく、ティガは優しい声で言った。


「いずれにせよ、他人がどうこう言うことでも、無理強いすることでもありません。天地自然のあるがまま……ですよ。ドラコにまた書状を託して差し上げましょう。出発前にお預かりいたします。」


「……ありがと。」



ティガが出て行くのを待って……泣いた。


くやしいけど、私は自信がなくなってしまった。


このまま、イザヤに逢えない日々がいつまで続くのかわからないけれど……私達は既にあの時の私達ではない。


時がたてば気持ちは移ろう。

それが、天地自然のあるがまま……?



イザヤ……。


逢いたい。

逢いたいよぉ……。



***

湖上に吹く風は、爽やかで、とても心地よかった。
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