ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
鳥の伊邪耶やは、うれしそうに羽ばたいて、イザヤの肩に移動した。


「イザヤ。カシコイ。イザヤ。カシコイ。」


伊邪耶に誉められてご満悦らしいイザヤに、小さく「ごめん」と謝ってから、ティガのスタンガンをしげしげと見た。


「確かに、それ、電気よね?」


「ええ。電気です。異世界人の知恵と技術から、我々は簡単な発電装置を得ました。車輪を回す摩擦から起こす電気です。もっぱら軍事利用ですが。」

ティガは淡々と恐ろしいことを言った。



「ほら。私も。まいらにも作ってあげようよ。ティガ。」

リタもまたスタンガンらしきモノをを見せてくれた。


気持ちはありがたいけど、何となく私は抵抗感を覚えた。


自分の身は自分で守れると言うような的外れな自信はない。

でも、スタンガンを持ち歩かなければいけないほど周囲に敵がいるとは、にわかに信じがたい。


……穿った見方かもしれないけれど……リタとティガは、イザヤに対して心を許してはいない、という証のように思えた。



イザヤは、全く気にならないのか、肩の伊邪耶をちょいちょいと指で撫でてはニコニコしていた。 



***

翌日、イザヤとともに湖に船で漕ぎ出した。


てゆーか!

普通、ボートを漕ぐのって、男性の役目じゃない?


イザヤは、偉そうに艇尾のほうにふんぞり返って座った。


 
「ここの水は美味いぞ。」

そう言って、イザヤは手のひらに湖水を少し汲み、鳥の伊邪耶に飲ませた。



「オースタ島は湖のほぼ中央だ。あの山に向かって漕げ。」

私には、それだけ。

 
何で!?

伊邪耶に対する優しさの少しでいいから分けてくれないかな。


かなり不満を感じながら、ボートを漕いだ。


 

「なんだ。そなた、巧いな。まともに漕げまいと思っていたのに。」


岸が遠く離れてから、イザヤはそう言った。
 

「うちのすぐそばの川でもボートに乗れるから。こんなに広くないけど近くにボートのある池もあるし。お父さんがね、漕ぐの巧いの。だから私も……」
 
……巧くなりたくて……


ポロリと涙がこぼれた。

  
慌てて涙をぬぐったけれど、イザヤにしっかり見られてしまった。
 
また無神経にからかわれちゃうんやわ……と身構えた。


けど、イザヤは笑わなかった。

 
ただ、黙って私の膝に、鳥の伊邪耶をそっと置いた。

  

「イザヤ。オチタ。オチタ。オチタ。」

私のしょんぼりした口調でそう繰り返す伊邪耶。
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