ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「すごい!ヴァイオリンまであるの!てか、弾けるの!」

驚いてそう言うと、イザヤは得意そうに胸を張った。

「これはスクリプカだ。」


すくりぷか?

どう見てもヴァイオリンだよね?


私自身はヴァイオリンを弾けないけど、親戚の恭満(やすみつ)くんが習ってたからよく知ってるんだけど……あ……違う。

バロックのヴァイオリンだ。

ピュア・ガットと呼ばれる、金属を巻いてないガット弦の柔らかい音色。



てか、上手いな。


イザヤ、普通に上手い。

しかも、既にさっき書いて渡したメロディーをちゃんと弾いてる。



「よし。合わせてみるぞ。」

イザヤに促されて、私は鍵盤に指を置いた。


……なんか、緊張する。

てか、何で異世界でセッションすることになってるんだろう。



私は、かつて、早々にピアノを辞めてしまった過去を、はじめて後悔した。


クラヴィシンとスクリプカの音の相性はバッチリなようだ。


……てか、やっぱり、これ、チェンバロとバロック・ヴァイオリンだと思う。

合わへんわけないやん……。


でも、2人の技術の差は明らかだ。

私は何とかノーミスで弾ける程度だけど、イザヤは途中で装飾音を勝手に入れちゃうぐらい堂に入っていた。


うまい!


イザヤがノリノリで楽しそうなので、何となく私も指と心が弾んできた。


「もう一度だ。」

イザヤは、何度も繰り返して、その都度アレンジを変えた。


スクリプカの優しい音色は、ミュージシャンのヴォーカルを思い出させるほどに、情緒豊かだった。




「おやおや。イザヤどのの悪い道楽に、まいらは拍車をかけるようですね。」

いつの間にか、ティガがサロンに入って来た。



「道楽?なの?」

ティガの言葉に違和感を覚えて、イザヤに尋ねた。


「教養や趣味の範囲を大きく逸脱してますからね。道楽と言って、差し支えないでしょう。」

イザヤより先にティガがそう言った。

ティガは明らかにイザヤを責めていた。


「私だけではない。代々我が家は……」

「ええ。そうですね。もともとイザヤどのの家系は楽器道楽でいらっしゃいますね。イザヤどのご自身も宮廷音楽家志望でしたぐらい。」

ティガはそう言って、ふふっと笑った。

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