ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
イザヤはムッとしたらしい。

「そんな時代に生まれたかったが、血の気の多い隣国の王のせいで、もはや叶わぬな。せいぜい、放逐されて、吟遊詩人が関の山だろうよ。」


そう吐き捨てると、イザヤは大きく弓を上げてから、一気に音をかき鳴らした。

イザヤの苛立ちが、激しくも美しい音の洪水になって押し寄せてくる。


……すごい。

圧倒的なパワーとテクニックに、私は息を飲んだ。




「うるさいなあ!ヒステリックで聞いてられないよ!」

リタが文句を言いながらサロンに入ってきた。



イザヤはそれも無視して怒りの音楽を奏できった。


そして、私に顎を突き出して、たぶん「弾け」と合図した。




……はいはいはい。



私は一息ついてから、なるべく穏やかな心で鍵盤に触れる。

歌うつもりはなかったけれど、優しい愛の歌詞を思い出し、口の中でつぶやきながら。


without needing words,
without needing reasons,
we begin the same story together



あれ?

イザヤはスクリプカを弾かなかった。



顔を上げると、3人が3人とも私を見ていた。



え?

何で?


驚いて、クラヴィシンを弾くのをやめた。


「弾かないの?」


そうイザヤに聞いたけど、イザヤは立ち尽くしていた。





「素敵な詞ですね。」

ティガが張り付けた笑顔でそう言った。



「あれ?聞こえた?英語の部分だし、めっちゃ小声やし、聞こえへんと思ってんけど……」

「なぜかわかんないけど、異世界人がどんな言葉を話してても通じ合えるんだよ。だからまいらにとっては外国の言葉でも、うちらにはその差はわかんない。で?いきなり何?喧嘩売る気?」

リタはそう言って、ビシッと右手の中指を立てて私を睨んだ。


へ?

それって、アメリカ人がやる「Fuck you!」てやつ?


何で?



「……いきなりって、単にそうゆう歌詞やから。素敵でしょ?」

敢えて敵意は無視してそう言ってみた。


ら、イザヤが苦笑した。

「突然、求愛されたのかと思ったぞ。……人騒がせなヤツめ。」



求愛?


意味がわからず、ポカーンとした。


「何で?」

そう聞いてから、私は3人の反応を思い返して、ものすごく恥ずかしくなった。


よくわからないけれど、私はやらかしてしまったみたい。




何で?何で?何で?


「何でーっ!?」


私は鍵盤に突っ伏して、そう叫んだ。

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