策士な課長と秘めてる彼女
「日葵、ごめんな。本当なら婚約する前にこうして日葵をデートに誘ったり、旅行に連れていくべきだったのに」

海を一望するリゾートホテルの30階。

フレンチのコース料理を前に、シャンパンで乾杯をしたあと陽生が申し訳なさそうに言った。

「いえ、今日はたまたま柊君がお仕事だったから旅行に来れたんだし、例えお付き合いする時間が嵩んでも、その時に私が゛出かけたい゛という気持ちになれたかどうかは疑問ですから、私の方が申し訳なく思うべきです」

ほんのりと頬を赤くした日葵。

窓の外は闇夜と水面に浮かぶブルームーン。

早く、部屋に戻りたい。

そして、日葵を心ゆくまで抱き締めたい。

陽生はそんな想いをひた隠すのに必死だ。

昨日は日葵不足でどうにかなりそうだった。

失うかもしれない恐怖と、見えない悪意に対する怒り。

そんな想いを、日葵を抱き締めることで昇華したい。

陽生の切ない想いを知ってか知らずか、日葵は程よくシャンパンに酔い始めていた。
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