策士な課長と秘めてる彼女

欲望

「あら、ずいぶん腑抜けになったものね。野心溢れる陽くんはどこに行ったのかしら?」

クスクスと笑う槙は

゛秘書課の頑張りやさん゛

という会社での評判とは裏腹に、高飛車で自信満々に見えた。

秘書課のボスと聞いて、半信半疑だった日葵だったが、目の前にいるこの人が本来の姿なら納得できる気がした。

「ねえ、真島課長、うちの会社には女に振り回されるようなできの悪い重役はいらないの。早く我に返って、私の元に帰ってきてちょうだい」

「よさないか、槙。陽生くんも蒼井さんも必要な手筈を取って休みを取得している。お前の言っていることは言いがかりに過ぎないと、何度いったらわかるんだ」

呆れたような橋満社長の言葉は、娘をもて余す父親として見ればかわいそうになってくる。

「何よ、パパだって、娘の婿になって親族として社を盛り上げてくれないのなら、陽くんはとんだ期待外れだ、って言ってたじゃない」

槙の言葉に橋満社長はギョッとなり、慌ててその言葉を否定する。

「ま、槙、それはお酒の席での戯れ言だ。いらぬことを口にするものじゃない!」

いくら酒の席でも言っていいことと悪いことはあるし、例え無意識でも、その気持ちは本音であるということだ。

日葵は顔を上げて、ジッと槙と橋満社長を見つめた。
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