太陽と月
真也さんと本庄さんが出て行き、リビングに1人になった。
颯介は、家であまり話さないんだ。
月の出てる夜はよく話してくれる颯介の笑顔が浮かんだ。
笑顔と言ってもそれは、愛おしい人を見る笑顔では無く、何の感情も感じ取れないものであったけど。
持って来た本を再び読む気にはなれず、目を閉じる。
「…ん!…さ…ん!」
肩を揺すぶられている感覚がした。
自分が寝ていた事に気付き、目を開けた。そこにはマリ子さんがいた。
「椿さん!こんな所でうたた寝してたら風邪引いちゃいますよ」そう笑っていた。
「寝ちゃった。マリ子さん今日のご飯は何?」うーんと伸びをして聞く。
「今日は、オムライスですよ。隠し味は溶き卵の中にバターとマヨネーズを入れる事です」そう教えてくれた。
「マリ子さん…いつも隠し味を教えてくれるけど、それっていいの?」初めて会った日から、料理の隠し味を教えてくれる。
肉じゃがの隠し味は味の素を入れる事
焼きそばの仕上げに少しだけ、ごま油を入れる事
ギョウザの隠し味は具の中にキクラゲを入れる事
カレーの隠し味はインスタントコーヒーを入れる事
まるで母親の様に色々と教えてくれた。
マリ子さんはにっこりと笑って
「他の人には内緒ですよ。いつか、椿さんも大切な人が出来た時に作って差し上げて下さいね」そう言ってキッチンに戻って行った。
大切な人が出来た時。
私にもいつかそんな人が出来るのだろうか?