太陽と月

少し黙った私の顔を覗き込んで

『椿、どうした?』


心配そうな陽介の顔がそこにあった。


私は自分の中で出来た違和感を払拭するように笑顔で


『何でもないよ。ちょっと疲れちゃたのかな?』


実際に疲れていた。


ただ、施設に居た時に感じていた疲れとは違って心地の良い疲れだった。


『そっか!結構、歩いたもんな。よし、アイス買って帰ろ』


と笑顔で手を差し伸べてくれる。


仮にも兄弟なのに、手を繋ぐ事に全く動じない陽介に驚きながらも、差し伸べてくれた手を取る。


地下でアイスを二つ買ってショッピングモールの近くにある河原に向かった。


『こんな所に河原があるんだね』


芝生に座ってアイスを食べながら聞く。


『ここの川綺麗だろ?俺、よく来るんだ。』と笑顔を見せてくれた。


『陽介はよく笑うね。』


何気なく言った言葉に陽介は驚いた表情を見せて


『だって笑ってた方が楽しいじゃん!何か、幸せって感じしない?』


そうなのかな?


私も施設では常に笑顔でいようと心掛けていた。


でも幸せだなぁって思った事は一度もなかった気がする。

そもそも幸せが何なのか分からなかった。


『陽介、今日はありがとうね。初めて買い物してこうやってアイスを食べたよ。』


と呟く様に話す私に


『椿!これからも楽しい事一杯しような!』


『楽しい事?』


首をかしげる私に


『うん!4月になったらお花見に行こう。夏は夏祭りと海に行こう。秋になったら、紅葉見に行こう。冬は仲間集めて、クリスマスパーティーだ!』


そのどれもが経験した事がなく、心が弾んだ。


君はその全ての楽しさを私に与えてくれたね。


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