大人の女に手を出さないで下さい
「…英梨紗には悪いけど、あなたと復縁なんてありえないわ。もう気持ちなんてないくせに復縁する意味がない」

「酷いな、これでもずっと梨香子の事を想ってきたんだが」

「あなたの事は信用できない。また裏切られるなんてごめんだわ」

「梨香子がもっと俺を頼ってくれてればあんなことにはならなかった」

「私が悪いって言うの!?」

「いや、今のは失言だった…」

首を振る英隆を梨香子は忌々しげに睨んで最後のワインを煽った。
今更昔の事を蒸し返してきて腹立たしい。
何故浮気されたのかやはり自分が悪いのかとあの頃の苦い思いが蘇るようだ。
もう英隆と話しなんてしてられない。もう帰ると立ち上がった時にふらっとよろけて咄嗟に英隆が受け止めた。

「飲みすぎたな、酔ってるだろ?」

「酔ってないわよ!帰るんだから離して」

「いや、一人で帰すなんて出来ない。送っていく」

強引に抱き寄せられふわふわとした足の感覚にさすがに梨香子も酔ってると自覚した。
一刻も早く英隆と別れたいのに支えられないと歩けない。
不機嫌なまま英隆に連れられタクシーに乗り込んだ。

英隆は何を思いよりを戻そうなんて言ったのか梨香子には皆目見当がつかない。
ふと、英隆の左手の薬指に結婚指輪がまだはめられているのに目が行った。
梨香子にだって今まで付き合って欲しいと言われた男性が何人かいる。
だけど店の事や英梨紗の事を考えるといつも躊躇して断っていたがそれだけではない。
指輪にこだわる英隆がチラついて自分は幸せになんてなれないと梨香子も知らないうちに囚われていたかもしれない。

「そんなもの、いつまでもはめてるからおかしなことを言いだすのよ。早く捨ててしまってよ」

「これは…梨香子が幸せになるまで外せないよ」

梨香子が何のことを言っているのか英隆は気が付いて自分の左手を見た。

「それがあるから私は幸せになれないのよ、それにあなたも。もう過去から解放されましょう、お互いに」

「…」

少し冷静になってきた梨香子はそれだけ言うと窓の外を眺めた。
こちらを向いてくれない梨香子に英隆は言おうとした言葉を飲みこんだ。

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