大人の女に手を出さないで下さい
これはだめだ、何を言っても諦めてくれそうにない。と悟った梨香子は、はあっと息を吐いて蒼士の肩に頭を付けた。
肩に重みが乗っかり梨香子が甘えてくれた気がして蒼士はいつになく緊張して腕に力が籠もる。

「わかった。蒼士くんのことちゃんと考えてみる」

「え、それじゃ…」

「ただし!付き合いは今までと変わらず一定の距離を保って!」

急にグイっと押され距離ができると梨香子は蒼士の鼻面に指を差した。
ヌカ喜びの蒼士は渋い顔をする。

「蒼士くんの告白は嬉しかったけど、私はまだ蒼士くんのこと好きかわからないし、蒼士くんも心変わりするかもしれない」

「そんなわけ…」   

蒼士が反論しようとすると梨香子の指は蒼士の唇を抑え黙らせた。
その行為に蒼士はちょっとどぎまぎした。
そんな蒼士を知ってか知らずか梨香子は指を離し静かに言った。

「一定の距離を取った上でお互い真剣に考えましょう。お互いの心について」

「え、今までと変わらずって、ハグもダメ?」

「ダメ」

「そんな…お互いのことをもっと知り合うのにスキンシップは大事だと思わないか?」

「まだ恋人でもないのにそんなことできません」

「せめて二人で食事とかデートは許してくれないか?」

今までのままじゃ何も進展しそうにない。
必死な蒼士は食い下がって何やら考えてる素振りの梨香子の反応を待つ。

「…そうね、食事くらいなら…」

やった!と内心ガッツポーズの蒼士の鼻面に再び梨香子の人差し指が迫った。

「ただ他の異性ともデートもしてOKってことで」

「えー?」

「お互いお付き合いというものがあるし出会いは閉ざしてはいけないわ。見聞を広めるためにも断っちゃダメよ?じゃないとこの話はなしだから」

そんなの必要ないのに!
でもそれを呑まなきゃ蒼士のことを考えてくれないと言われれば、縦に頷くしかない。

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