大人の女に手を出さないで下さい
釈然としていない蒼士を見てちょっとかわいそうかなとも思うけど、梨香子にとってはこれが最大の譲歩だ。
はっきり好きとわからない今の状態で付き合ってもきっと蒼士を苦しめるだけ。
そして、この先の出会いを遮断させないため。
きっともっと蒼士にふさわしい女性が現れるはずだから、と、そうやって梨香子は深入りしないよう逃げ道を作りながら蒼士の事を少しは受け入れようと考えた。

「…わかったよ、梨香子さんが歩み寄ってくれるだけでも収穫だ。今まで相手にもされなかったからな」

「う…」

今まで散々相手にしてこなかったのをチクリと言われて梨香子は言葉が詰まる。
でも、謝らないわよ。ほんとに気の迷いが冗談だと思ってたんだから。
梨香子は目を逸らしつんと澄ました。

「その代り、梨香子さんが俺に振り向いてくれるように仕掛けていくからそのつもりで」

「ええ?」

蒼士を見ればにやりと狡猾な笑みを見せられ梨香子は固まった。
英梨紗の事以外あまり動じない梨香子もその笑みには冷や汗が出る。
あんまり大人の女を弄ぶようなことはしないでほしい…。

「話はまとまったかしら~!」

!!

声がして噴水の向こう側を見ると、タイミングを見計らったように出てきたトミちゃんと英梨紗はニヤニヤしながら蒼士と梨香子の顔を交互に見る。

「ママっ!ママと蒼士くんが抱き合った時ドキドキしちゃった~!」

「えっ!?」

梨香子はキャッキャと喜んでるらしい英梨紗を抑えつつ、買って来ると言っていたアイスが二人の手にない事に気付いてトミちゃんを睨む。

「トミちゃん!さては全部見てたでしょ?」

「親友として見守らないとねえ!熱~い蒼士くんの愛の告白にリカちゃんもとうとう陥落したわね!」

「熱いって…」

梨香子は呆れたとため息をつき、蒼士は感情のままに告白をしたことを今になって恥ずかしくなってきて顔を片手で覆った。

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