大人の女に手を出さないで下さい
気を落ち着かせようとお茶を飲もうとして梨香子は吹き出しそうになった。
寸でで持ちこたえて慌ててナフキンで抑える。
ふふっと笑う敏明にこれは全てお見通しだなと梨香子は悟った。
なんて言っていいのかわからなくて梨香子はハハッと乾いた笑いで取り繕う。

「梨香子さん?」

そんな時に横から呼ばれて目を向けた梨香子はまた瞬きする。

「やっぱり。親父…」

なんでこんなところにいるのか、梨香子を見つけた蒼士は向いに座る父の敏明に複雑な顔をする。
しかし敏明は驚くこともなく朗らかに息子を見上げた。

「おや蒼士、こんなところで会うとは。後ろのお嬢さんは?彼女か?」

「っ!…違うよ。前の職場の後輩だ。相談があるって言うから食事がてらここに…」

余計なことを言う父に蒼士は苛立つもここは店内ということもあり声を抑えて否定して後ろを向いた。
見れば後ろには、ゆるくウェーブかかった長い髪にミントカラーの膝上ワンピースを着た可愛らしい女性が立っていて蒼士と敏明達を交互に見て、はっとした彼女は慌てて挨拶する。

「あっ始めまして、川浦あやかと言います」

「蒼士の父の敏明です。こちらは国永梨香子さん」

「こんばんは。可愛らしいお嬢さんね?蒼士くん」

笑顔を向けた梨香子の頬がヒクついている。
何よ、やっぱり可愛い彼女いるじゃないの、と梨香子は内心面白くない。
口元は笑っていても目が笑ってなくて蒼士はぎょっとした。

「梨香子さん?違うからね?」

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