大人の女に手を出さないで下さい
いい雰囲気のまま、帰路につきマンション前まで送ってもらった梨香子が車から出ると敏明もわざわざ出てきた。

「今日はお付き合い頂きありがとうございました。楽しかったですよ」

「こちらこそ。私も楽しかったです」

「本当に?」

「え?もちろん」

首を傾げた敏明に覗き込まれ梨香子は目を瞬かせた。
念を押されたようで面食らったが敏明は納得したように頷いた。

「楽しんでもらえたのなら良かった」

「…はい」

優しげに微笑み見つめられて梨香子がはにかむとその頬に敏明の手が触れた。

「こんな大人の魅力溢れる女性は蒼士にはもったいないな…」

「え…」

妖艶な瞳に囚われて梨香子は動けなくなった。
敏明こそ還暦を過ぎたとは思えない大人の魅力溢れる素敵な男性だと梨香子は思う。
そのまま近付いてくる敏明に梨香子は全てを委ねそうになり、落ちてくる影に自然と瞼を閉じた。
フッと耳元に吐息がかかった、と、同時に梨香子は軽くハグされ直ぐに開放された。
梨香子がキョトンとしてる間に敏明にさあ早くお入りなさいと玄関ホールに促された。

「遅くまでお付き合いありがとう。また二人で食事にでもいきましょう。では、おやすみ」

「あっ…おやすみなさい」

我に返った梨香子がそれだけ言うと敏明はニコリと笑い颯爽と帰って行った。
肩透かしを喰らった梨香子は呆然となった後、可笑しさがこみ上げてクスクスと笑い声を上げた。

< 48 / 278 >

この作品をシェア

pagetop