大人の女に手を出さないで下さい
ホテルに付くと待たせても悪いからとタクシーの支払いを済ませた元倉はフロントで鍵を受け取るとまた伺うように梨香子を覗き見る。

「最上階に眺めのいいバーがあるそうなんですよ。良かったらもう少し飲みませんか?」

「あ~、ごめんなさい。家で娘が待ってるのでカタログ受け取ったら帰りますね」

梨香子が断ると元倉は残念そうに肩を落とした。

「そうですか。ではまたの機会に。すいませんが部屋まで来てもらえませんか」

そう言って元倉はさり気なく梨香子の腰に手をやりエレベーターまで促した。
梨香子も特に気にすることも無くエレベーターが下りてくるのを待つ。
さすがは営業ともいうべきか元倉は爽やかな雰囲気も相まってエスコートが上手く、会話にも事欠かない。
話してるうちにエレベーターのドアが開き先に梨香子を乗せレディーファーストも完璧だ。
5階のボタンを押した元倉は梨香子の腰を引き寄せ密着度が増した。
さすがにちょっと、と梨香子がゆっくりと離れようと身をよじると耳元に元倉の唇が寄せられた。

「国永さん、あの…」

2階が表示されチン!と到着を知らせる音と共にドアが開き客らしき男女が乗り込んできた。
一瞥された元倉が気を取られてる間に梨香子はサッと離れ何事も無い様な顔をした。
しかし心の中には疑問符が並ぶ。
さっきのは何?気のあるような素振りにちょっと面食らう。
いやいやまさかね…。
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