大人の女に手を出さないで下さい
男性が最上階のボタンを押し女性を引き寄せた。
カップルなのだろう。最上階にはバーがあると言っていたから飲みに行くのかな。
他人が乗ってるというのに二人は密着しクスクスと笑いあっている。
梨香子は幸せそうな二人を見て羨ましいなあと思っていた。
自分もあんな時期があったんだよな、と遠い昔を思い出しもう私には出来ないな…とこっそりため息を吐いた。

5階に着き元倉の部屋の前、彼はさっきのエレベーターの事は無かったように普通で、部屋にどうぞと促されたけども梨香子は廊下で待ってますと有無を言わせない笑顔で断った。
残念そうな元倉はちょっと待っててくださいと部屋へ入って行きほどなくして戻ってきた。

「これです、おすすめの商品もあるので説明したいのですが…」

「それは先ほど元倉さんがたくさん説明してくれたじゃないですか。帰ってじっくり見させてもらいますね。ではこれで…」

引き留められそうなところを梨香子は遮り気付かないふりして帰ろうとする。
そうですね…と元倉は言っておきながら梨香子の腕を掴んだ。
振り向くと元倉の瞳に色気が混じり近づいてきて一瞬目を瞠った梨香子はサッと離れた。

「あ!お疲れでしょう?もうおやすみになられた方がいいですよ。私も帰ります」

梨香子がサッと後ろに引き早口で言うと元倉はフッと小さく息を吐き静かに微笑んだ。

「…いや、下まで送りますよ」

「いえいえ、お気遣いなく」

いえいえ、いやいや、言い合いながら結局じゃあエレベーターまでと元倉にまたエスコートされた。
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