大人の女に手を出さないで下さい
それから日を空けて冷静になってから英隆の言い訳を聞いた。
相手は英隆の所属する法律事務所を辞めた元パラリーガル。
辞めた後、相談があると英隆を頼り何度か会っていた。
相談内容は仕事の話ではなくプライベートなことがほとんどで、泣きじゃくる彼女を何度か抱きしめ宥めたことがあるという。
あの日も、会ってほしいと頼まれまた泣き出した彼女を宥めているときにキスを求められ受け入れてしまった。
決して恋愛感情があってしたわけじゃないと言う英隆を梨香子は虚ろな目で見ていた。

相談に乗っている間にそういうことに…よくあるパターンじゃないかと梨香子は思う。
その相手の彼女もその気があるから何度も英隆を呼び出し会っていたんじゃないだろうか。
英隆は弁護士のくせになんて情に流されやすいんだろうと冷静に考えていた。

英隆は誰が見てもいい男で昔からモテていた。
そんな英隆を射止めた梨香子は友達に羨ましがられたりもしたけど、実際は自分では英隆を繋ぎ留めることはできずにこうやって裏切られる羽目になった。
自分は英隆の何なんだろうと気も落ちていく。

浮気じゃないと言い張る英隆に「じゃあどこからが浮気なの?キスは浮気の内に入らないの?」と聞くと英隆は言葉を濁す。
「じゃあ、私が誰かの相談を受けて宥めるのにキスしても英隆は何とも思わないのね?」
そう聞けば「そんなことない…」と渋い顔をする。
何を言っても話は平行線で埒があかない。

それに英隆は嘘をついている。
絶対にキスだけの関係じゃないと梨香子は確信していた。
思い返せばいつも帰りが遅いだけじゃなく、家にいても携帯を気にしていた様子や、説明出来ない英隆のいつもとは違う雰囲気に思い当たるフシがあった。
今更気付くなんて情けない話だが、隠し通そうとする英隆に不信感は募るばかりだった。
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