大人の女に手を出さないで下さい
「あたし浮かれちゃって、蒼士くんの気持ち考えてなかった。蒼士くんはママの事好きなのに、あたし…パパとママとまた一緒に暮らせたらなって思っちゃった…」

「英梨紗…」

しゅんとする英梨紗を抱きしめ頭を撫でて梨香子は思う。
自分が我慢していればもしかしたら今でも英隆と3人で暮らしていたかもしれないと思うと英梨紗に寂しい思いをさせて申し訳ないと思う。
でも、あの時離婚せずにいたらいつまでも自分を責め続け英隆との間もよそよそしいものとなって英梨紗にもっとさびしい思いをさせていたに違いない。
離れている寂しさより傍に居るのに感じる寂しさの方が格段に大きい事を梨香子はあの時身を持って知った。

「英梨紗、ごめんね。でもママは、パパとはもう…」

「あたしね!」

パパとはもう戻ることはないと梨香子が言おうとすると英梨紗はそれを遮るように声を上げた。

「ママも、パパも大好きなの!二人が幸せならそれでいい」

「…」

英梨紗がにこりと笑い言ってくれたが、梨香子は曖昧に微笑んだ。
無理をさせている、それが分かってるだけになんて言っていいのか分からない。

「…それに、蒼士くんも大好きなの。ママのこと大好きって傍から見ても凄くよく分かるから。なのにママったらいつまでもつれないんだから…」

「英梨紗、蒼士くんはね…」

「ママが幸せになってくれなきゃ困る。蒼士くんなら新しいパパになるの大歓迎だから、だから…」

梨香子が困り顔で見つめれば真剣な表情の英梨紗が言葉に詰まって目をうるうるさせている。
英梨紗の言いたいことは良く分かる。
パパがダメでも蒼士くんとなら幸せになれるでしょう?
と、梨香子の背中を押してくれてる。
娘としては複雑な想いもあるだろうに梨香子の幸せを一番に考えてくれてとても有り難いと思う。
でも、梨香子には越えなくてはいけないハードルがいくつもある。
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