大人の女に手を出さないで下さい
今の年齢に、蒼士との年齢差、彼の立場に、父の敏明の心情、自分の今の気持ちもこれは愛情なのかただの親愛なのかまだ測り兼ねる。それに、蒼士を受け入れたとしてその先は?そのまま付き合いを続けていくのかその先に結婚があるのか?そうなると子供は?彼の子供を産めるなんて到底思えない。蒼士と出合っていたのがせめて10年前なら気持ちも少しは楽だった。でも、それでも年齢差は埋められない。
何で今なの?なんで私なの?否定的な考えしか思い浮かばなくて梨香子は小さく首を振った。

「ママ…」

「心配してくれてるのにごめんね英梨紗。でもママ、もう少し考えたいの、蒼士くんとのこと。だから待っててくれないかな?いつか、答えを出すから」

今の精一杯はとにかく考える事、それしかできない。
英梨紗の瞳を見つめ言うとじっと見つめ返してきた英梨紗はうんと一つ頷いた。

「わかった。ママも悩める乙女だもんね。いっぱい悩んで納得した答えを出すといいよ」

「あら、ママはまだ乙女なの?」

「そうだよ~女は幾つになっても恋する乙女なんだから!トミちゃんが言ってた!」

梨香子がおどけて言うと英梨紗も元気に言った。
トミちゃんなら言い兼ねないわね。と梨香子は呆れつつ笑顔を取り戻した英梨紗を抱きしめた。
優しい娘はいつの間にか成長してるのだなと少し感動する。

「ね、ママ一緒にお風呂入ろ?最近お肌のお手入れ怠ってるでしょ?ちょっと目を離すと直ぐ怠けるんだから!」

「…あはは、英梨紗はよく続くわね。ママもうめんどくさくって…」

マメな英梨紗と違ってめんどくさがりの梨香子はせっかく英梨紗が用意した美容グッズも埃をかぶり気味である。

「後でクリーム塗ってあげるから!ね?」

英梨紗は、はいはいと肩を竦める梨香子の背中を押してバスルームに入った。
いつでも綺麗なママね?って言われ欲しくて英梨紗は甲斐甲斐しく世話を焼くのだが、今は、蒼士に少しでも綺麗って思ってもらわないと!と意気込んでいた。


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