このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~

あの日伝えられなかった言葉が、じんわりと胸に染み込んだ。ストレートな言葉は、何よりも響く。

まさか、これを告げるために、わざわざ旅館へ行こうと言ってくれたのだろうか?お見合いをちゃんとやり直したい、というのは、このためだったらしい。

お見合いの先にある“結婚”からずっと目を逸らしてきた私。初日に伝えられるはずだったプロポーズを今ここで聞けるなんて、思ってもみなかった。

そっ、と、指輪を手に取る律さん。

左手の薬指に光るダイヤに、無意識に溢れる涙。

これは、本当に私が貰っていいのだろうか?こんな嬉しい言葉をかけてもらえる存在なのか?いまだに、その一歩が踏み出せない。私は、彼の胸に安心して飛び込める勇気が持てずにいる。


「百合。」


何も言えなくなった私に、律さんは小さく声をかけた。

数秒の沈黙の後。穏やかでいて、力強い意思を持った彼の声が、はっきりと耳に届く。


「怖がらなくていい。何を迷う必要がある?…お前が、借金だとか身分だとかで俺の隣にいるのが不安なら、そんなちっぽけなしがらみなんて考えられなくなるくらい幸せにしてやる。ーー今、百合が考えるのは、俺のことが好きかどうかだけだ。」

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