このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~


「「??!!!?!」」


口内を刺激するスパイス。

中辛のルーとは思えないほどの辛味に、思わず咳き込む。


「は、榛名さんっ!スパイスどれだけ入れたんですかっ?!!!これっ、劇物…」

「…っ!……っ!!」


喉がやられて声が出ない彼。“こんなはずは…!”と目が訴えている。

その瞬間、私は思わず吹き出した。


「あはははっ…!!もう、ほんとに……。榛名さんは期待を裏切りませんね…っ!」


笑いが止まらない私に、水を飲み干した彼は額に手を当てながら低く唸る。


「…すまない。これは、俺が責任を持って食べる。百合はもう口にするな。スパイスに殺されるぞ…」

「大丈夫ですよ!ほら、牛乳とか卵とかをかければ、多少はまろやかになりますし。それに、せっかく一緒に作ったものなんですから。」


私の言葉に、榛名さんは複雑そうな表情でこちらを見つめた。


「…ダメだな。今日は、百合の前でカッコ悪いところを見せるばかりだ。」

「そんなことないですよ?まぁ、男の人が料理出来たらカッコいいなあとは思いますけど…。私はむしろ、嬉しいというか。」

「?」

「なんだか、やっと“素の榛名さん”を知れた気がして。」


ーー榛名さんは、ずっと“完璧超人”だと思ってた。

二十九歳の若さで副社長となった大財閥の御曹司は、美貌と実力を兼ね備えた大人の男の人で、色気もカリスマ性もある“憧れの的”。それこそ女性人気も高く、非の打ち所なんてない雲の上の人。

だけど今、目の前にいる彼は違う。

誠実だけどたまに抜けてて、不器用だけどまっすぐで。クールだけど、どこか可愛い。


(ーーほんと、罪な人だ。)

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