このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
思いもよらぬセリフ。
必死で記憶を辿るが、心当たりがない。
すると、そんな私の心中を察したのか、彼は過去を懐かしむように頬杖をついてまつ毛を伏せた。
「ーーあれは、親父が主催の“園遊会”だったか。名のある財閥が招待されて食事をしながら交流する、いわば“親睦パーティー”。ほら、よくあるだろう。“ツテ”を作るための社交場が。」
確かに、私も家が没落するまではよく父に連れられてそういう場に参加していた。
幼い頃は、美味しい料理が食べられるだけのパーティーだと思っていたが、大人になってから考えればよく分かる。あれは、“業界で生き残るために”大切な顔合わせの場だったのだ、と。
「…当時小学生だった俺は、大人たちのごますりに嫌気がさして、一人、屋敷でピアノを弾いていた。」
「ピアノ…?」
「あぁ。ウチは楽器メーカーだからな。幼い頃からレッスンを受けていた。…といっても、子どもの頃は、指の怪我をしないようスポーツを禁止されていたから、あまり好きではなかったが。」
その時、すっ、と彼が顔を上げる。
まっすぐな視線が私を貫いた。
「だけどその日、俺はピアノが好きになった。将来ピアニストになろうと思うほどに。」
「…え?」
「百合。お前が、俺のピアノを好きだと笑ってくれたからだ。」
「!」