このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
と、次の瞬間。日笠さんの顔つきが一変した。
まるで、この世の終わりのような表情に、私と紘太は、ぱちり、とまばたきをする。
「…これを、副社長が?まさか、包丁を握ったということですか?」
「?はい。今まで料理はしたことなかったらしいんですが、私が食べたいものを言うと作ってくれて…」
あ、今のノロケっぽかったか?
全くそんなつもりはなかったが、結構恥ずかしい。
しかし、日笠さんは硬い表情を崩さず、静かに告げる。
「あの、奥さま。…一つお聞きしますが、副社長がピアノの教養を受けていたことはご存知ですか?」
突然投げかけられた質問。
その真意をはかりかね、私はおずおずと答える。
「えっと…、以前、榛名さんから教えてもらったことがあります。後でネットで調べたら、コンクールでの入賞記録がたくさん出てきて…。本当にプロを目指せるレベルだったとか。」
そう。
彼はピアニストの道を選ばなかったものの、世界では将来を期待される実力者だったのだ。幼い頃の彼が賞状を手に笑っている写真はまるで天使のようだった。
するとその時、とても言いにくそうな表情の日笠さんが、意を決したようにぼそり、と囁く。
「…では、“副社長の指に、いくら保険金がかけられているか”ご存知ですか?」
「へっ?」