このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
硬直する私。
“保険金”?
そんなことは少しも頭になかった。
そういえば、彼は昔、指の怪我をしないよう、スポーツを禁止されていたと言っていた。もしかして、今まで料理をして来なかったのも、止められていたからなのだろうか。
「あの…、検討もつかないのですが…?」
おずおずとそう答える。
すると、日笠さんは、ふっ、と目を閉じた。
「ーー片手で豪邸が建ちますわ。」
「「?!?!?!!」」
ーーピロン。
私と紘太が息を止めると同時に通知が入るスマートフォン。
その画面には、相変わらずカメラワークが下手な自撮りが映る。
“今日は、ビーフストロガノフだ。”
「ねえちゃん、止めなきゃ!!!火傷でもさせたら、俺たち一生借金返せなくなるよ?!!!」
「“冷ややっこ”にしましょう!!紘太!今すぐおばあちゃんに電話かけて!!」
ーー夕暮れの都心のビル街に私と紘太の絶叫が響き渡り、くるりと背を向けた日笠さんは、静かに笑いをかみ殺す様に肩を震わせていたのだった。