このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~

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「“多額の保険金”?そんなのかかっているわけないだろう。」


ーー午後七時。

実家に帰った私の目の前で、事情を聞いた榛名さんがくすくすと笑う。あまりにもリアルなジョークにまんまと引っかかった私は、じとっ、と彼を見つめた。


「私も紘太も、日笠さんが耐えかねて笑い出すまで全然気がつきませんでしたよ。」

「素直で反応が面白いから構いたくなるんだろう。日笠はいつも百合のことを“可愛い可愛い”言ってるからな。…それにしても騙されすぎだ。むしろ不安になってくる。」

「榛名さんならあり得なくもないじゃないですか。」


なんせ、カップラーメンを知らない男だ。恵まれた裕福な家庭に育ち、ピアニストとして有望だったとなると、指に保険がかかっていても不自然ではない。

“箱入り息子”ばりに過保護に育てられていたのかと思ったが、彼の学生時代は意外とアクティブだったようだ。ハルナホールディングスに就職する前は、無断でアメリカの友人の家に泊まりに行ったり、ヒッチハイクでキャンプなんかもやっていたらしい。

金目当ての悪い奴のせいで犯罪に巻き込まれたらどうするつもりだったのか、と尋ねると、彼はさらりと、「その時はその時だ。人生、やりたいことをやったもん勝ちだろう。」と口にした。


(“その時はその時だ”なんて、世界のハルナホールディングスの御曹司の身代金が一体いくらになるかなんて頭にこれっぽっちもないんだな。恐ろしい…)
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