このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
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『副社長、お久しぶりです。…あれ?隣の女性はどなたですか?』
「あぁ、松方さん。この前はどうも。彼女は俺の“婚約者”です。」
『“婚約者”?!』
ーークルーズ船が港を発ってから数十分。
デッキに降り立った榛名さんは、予想通りセレブのゲスト達に囲まれた。彼が私を“婚約者”だと紹介するたびに、相手は態度を一変させて私に深々とお辞儀をする。
(い、居た堪れない…!顔がひきつる…!!)
ボロが出ないよう、最低限の会話で乗り切る私。一方、榛名さんは水を得た魚のように生き生きと私の肩を抱いている。
(やめて…!周りの視線が痛いから!!重役達の目が怖いからっ!!)
突然の婚約者同伴に、周りもザワついているらしい。しかし、“なんなの、その女”とシャンパンをかけられるようなことはないようだ。皆、“婚約者なんて認めない”、というよりは、“榛名さんとツテを作る為に奥さんとお近づきになっておきたい”という下心が丸見えである。
彼が言っていた“売り込み”の意味がやっと分かった。
その時、白いジャケットを着こなしたパーティースタイルの日笠さんが、にこやかな笑みを浮かべながらコツコツと歩み寄ってくる。
「奥さま大丈夫ですか?…すでにお顔が疲れていらっしゃいますが…」
「だ、大丈夫です…。」
私の心境を察してか、苦笑する日笠さん。
彼女は、コホン、と一呼吸置いて榛名さんへと声をかける。
「副社長。先ほど、美濃財閥の会長がデッキにお見えになりました。少しお時間よろしいですか?」
「あぁ、分かった。」