このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
くすくすと笑う真人。
しかし、その視線は獲物を見つけた獣のような威圧感と鋭さがある。
「久しぶりだな。紘太はどうだ。元気にしているか?」
「…今さらどういうつもりですか?心配もしてないくせに、紘太の名を口にしないで。貴方と話すことなんかありません。」
「まぁ、そう怒るなって。昔は悪かったよ。」
白々しく笑う真人を睨みつけるが、彼はさらり、と受け流し強引に私の肩を抱く。
“逃げなきゃ”
ぞくり、と背筋に震えが走り、本能的に頭の中で危険信号が鳴り響いたが、声を上げて助けを呼ぶことはできなかった。ここは、セレブ達の集まる社交会場。ハルナホールディングスにとって重要な創業記念パーティーで騒ぎを起こせば、榛名さんに迷惑がかかる。警備員は重役達にべったりで、庶民の小さなトラブルに気付いてくれる人はいなさそうだ。
しかし、真人の腕は自力では振り払えないほど強引で、抜け出すことも難しい。お嬢様であったうちに護身術でも習っておけばよかったと今さら後悔が滲む。
その時、シャラン…、と首元のネックレスが音を立てた。鎖を指で弄ぶのは、真人である。
「…へぇ、結構高いブランドじゃねえか。借金はもう返済したのかよ?それとも、男からの貢ぎ物か?」
「!」
「逢坂の“はぐれ者”のくせに生意気だな。…貧乏人の分際でここでセレブを引っ掛けるつもりなら、俺が一晩買ってやろうか。」
「っ!触らないで!!」
ーーブツン!!
思わず彼の手を振り払う。
値札にいくつゼロが付いているかもわからないネックレスが引きちぎれたが、それよりも身震いがするほどの恐怖が先行し、力一杯真人の体を突き飛ばした。
「…っ、何すんだよ…!」
ーーと。真人が激昂に瞳の色を変えた、その時だった。