このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
きょとん、と目を見開いていると、やがて彼は先ほどまでの柔らかな笑みに戻り、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「逢坂さん、か。…どう?気分直しに俺と飲まない?下の階に行けば、ここよりゆっくりできるよ。」
「え…!」
「警戒しなくていい。ソフトドリンクもあるから。…君の“連れ”が戻ってくるまで。…ね?」
甘く低い声が、じんわりと流れ込む。
ーー確かに、ここに一人でいても特にすることがあるわけではない。また真人に絡まれても災難だ。
彼の誘いを受け入れた私の心中を察したのか、彼はふわり、と微笑み、ゆっくりと歩き出した。私は、ととと…、と彼の半歩後ろへと駆け寄り、静かに見上げる。
「…あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ーー“ソウ”。」
「ソウさん?」
「あぁ。気軽に呼んでいい。」
下の名前だけなんて、どこかのホストのようだ。もしかして、芸名なのだろうか。ちらり、とこちらを見やった彼。初対面のはずなのに、色気を帯びて伏せられたその“切れ長の瞳”は、どこか既視感がある。
ーーこうして、ミステリアスな雰囲気を纏った彼に連れられ、私はセレブたちの集うデッキを後にしたのだった。