このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
「…で。逢坂さんは、どこかの令嬢?」
「え…っ?」
「ここは、何らかの“ツテ”がないと縁のない場所だから。…それとも、芸能界の人かな?」
「ま、まさか!…私は、ただの一般人ですよ。」
私の誤魔化し笑いに、不思議そうにまばたきをした彼。実は借金を抱えた貧乏人だ、なんて言える雰囲気ではない。
「ソウさんは、どういった繋がりでいらっしゃったんですか?」
「俺…?」
「はい。その…こういうパーティーが似合うというか…慣れていらっしゃるような気がして。」
「ははっ。そうかな?…まぁ、芸能人じゃないってことだけ言っておくよ。」
上手くはぐらかされたような気がするが、深追いをするつもりはない。他愛のない会話を続ける中、彼は自分のことになると、いつも巧妙に話題を逸らした。“ソウ”という呼び名が本名かどうかも怪しい男と二人で飲んでいる。男性慣れもしていない普段の私なら警戒心もあり、決してあり得ないシチュエーションだ。
しかし、彼は私を助けてくれた。素性は分からないけれど、信頼するには十分だと思えた。
それに、彼の声はどことなく心地よかった。低すぎない艶のある声が、ふわふわと私を包んでいく。