このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
「ーーへぇ。逢坂さんは、弟がいるんだ?」
「はい。七つ下なので結構離れているんですけど、仲はいいと思います。特に、ウチは両親がいないので…」
「そっか…、苦労してきたんだね。」
喋るはずのない言葉が、ぽろぽろと口から溢れていく。初対面の人にこんな話をするなんて初めてだ。彼が“聞き上手”なせいもあるだろうが、何故かさっきから、ぽーっとする。思考が鈍くなるに従って頭の歯車がどんどん動くスピードを落としていき、まるで催眠にでもかけられたかのような妙な心地よさだ。
(あれ…?なんか、視界がぼやける…)
ーーすっ。
その時。ソウさんが、そっ、と私へと手を伸ばした。つぅ…っ、と髪を撫でた彼は、くすり、とわずかに口角を上げる。
「…眠くなってきちゃった?本当に“弱い”んだね。」
「え…?」
「いや、こっちの話。…楽にしてていいよ。」
いつの間にか、手にしていたグラスは空になっていた。
ーーそして、天使の囁きのような彼の声が耳に届いた瞬間。私は、そのままふわふわと心地よい雲に埋もれるように、プツリ、と意識が途切れたのだった。