このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
無意識に口から溢れた名前。
彼は、私をかき抱くように、すっぽりと体を包み込む。肩の力が抜けたように息を吐いた榛名さんは、私の存在を確かめるように撫でながら、そっ、と呟いた。
「…よかった…」
言葉の意味が分からず、ただ、まばたきをする私。腕の力を緩めようとしない彼に、おずおずと声をかける。
「…あの、榛名さん…?」
「……」
何も言わない彼は、じっ、と俯いて目を閉じていた。そして、やがて、すっ、と離れた彼は、どこか不安げに瞳を揺らして口を開く。
「大丈夫か、百合。何かされたりしてないだろうな?」
「…?だ、大丈夫ですが…。何の話ですか…?」
「酔っぱらったお前が、スーツの男に横抱きで連れてかれたと、会場を回っていた日笠から聞いた。…一人にしてすまなかった。」
「え…!」
ようやく、意識を失う寸前の記憶が蘇った。
隣で談笑していたはずの素性不明の彼がいない。きっと、日笠さんが目撃したのは彼と私だ。
榛名さんの言葉に動揺して衣服を見るが、ドレスにも、もちろん下着にも手をつけられた跡はない。それどころか、私は肩までブランケットをかけられ、靴も丁寧にベッドサイドに揃えられていた。強いて言えばアップにしていた髪が解けているが、それも枕に横たえる際に気遣ってくれたのだろう。
一緒にバーにいた彼に襲われかけた、と言うより、とんでもない迷惑をかけてしまったらしい。