人生の続きを聖女として始めます

レグルス

ーーー(獅子王・レグルス)

塔の下に亜麻色の髪の女の子を見つけたのは、ラ・ロイエで暮らし始めて13年が経った頃のこと。
その時オレは、この世にこれ程綺麗なものがあるのかと衝撃を受けたんだ。

エルナダでは、双子は凶兆。
当時の獅子王の息子、その双子の弟として生まれたオレは、いないものとして名前すら隠匿され、産まれてすぐに、乳母と共に彼女の実家の領地でひっそりと育てられた。
存在を知っているものは極わずかな者のみで、彼らにも箝口令が敷かれたらしい。

双子の兄ルリオンとは一度も会ったことはなく、父や母の顔も知らない。
だが、それを不幸だと思ったことは一度もない。
乳母は優しかったし、何も不自由はしなかった。

そして、4歳になった時、唯一の世話係だった乳母が亡くなり、ラ・ロイエに送られることになった。
そこでソーントン子爵ランドルと青年執事デュマにその役は引き継がれたのだ。
子爵は父のように、デュマは兄のようにオレに接してくれた。
子爵は決して裕福ではないにも拘わらず、勉強の為に沢山の本を集めてくれ、執事デュマは幼いオレに密かに剣を教えてくれた。
使うことはないかもしれませんが……と言いながらそれでも厳しく真剣に指導する。
そんな彼は、他国にて脛にキズのある身であると密かにオレに明かしてくれた。
子爵婦人のサマンサは領地の婦人会と共に、監獄の他の政治犯に食事を作っており、もちろんオレの食事も担当している。
彼女の食事は質素だがとても美味しく、オレはそれを母の味だと思って育った。
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