嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「忠告だけど、社内には同族経営に反抗的な勢力もある」


肩の力を抜いたように溜め息を吐き、芳樹社長が続ける。


「俺だって伊達に遊んでるわけじゃない。酒宴に出席し人脈を広げ、円滑な情報収集のためでもあるんだ」
「……よく言うよ」


薫さんが呆れた声で吐き捨てた。


「まあだからこれからは、なにかあったら意地張らないで俺を頼れ。ひとりでなんでもやろうとしないでさ」
「……」
「俺、帰るよ。新しい自社農園の見学は済んだことだし」


口を真一文字に結ぶ薫さんの前からくるりと体を反転させて、芳樹社長は私の方に向き合った。


「一華ちゃん、結婚式のときはまた、俺が直々にメイクしてあげるよ。君は素材がいいからね」


お得意の軽い調子で言った芳樹社長が、私の頬に手を伸ばしかけたとき。


「おい、触るな」


パシッと、乾いた音がした。
薫さんが芳樹社長の手を払ったのだ。

赤くなった手を、芳樹社長は宙に浮かせる。


「パーティーのとき、一華ちゃんに言いかけたこと覚えてる?」


その手をさすりながらも、芳樹社長は鷹揚な笑みをたたえて続けた。


「憎たらしいくらい俺の前では不遜な態度ばかりとってる薫が君のことになると本気で焦るなんて、きっとかなり夢中になってるんだろうと思ったんだ。過去の恋も忘れるくらい」
「っ、え……」


反応に困って戸惑う私に軽く手を挙げ、芳樹社長は玄関のドアに向かって歩きだした。


「じゃ、またな」
「お車までお送りいたします」


長瀬さんが一礼し、芳樹社長と一緒にドアから出て行ってしまった。

嵐が去ったように静かになる部屋の中で、所在無くただ俯いていた私に薫さんが言った。
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