嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「でも?」


薫さんは真剣な眼差しに、微量の焦りを滲ませる。
その苦しげな表情に、心を揺さぶられる。


「で、でも、彩月さんは……?」
「彩月?」
「薫さんは、彩月さんのことが好きなのでは……?」


薫さんは怪訝そうに、目をまん丸に見開いた。


「俺が彩月を、好き……?」
「えっ……」


でも芳樹社長が言ってたし、パーティーのときも、ホテルで見かけたときも親しげだった。


「違う……のですか?」


私がやや疑心暗鬼になりながら聞くと、薫さんは頭を掻いた。


「彩月とは子どもの頃から知ってる間柄だから、好きとかそういう気持ちとは違うな」
「えっ、そ、そうなんですか?」
「兄がほかの周りの女と同じように、彩月に期待を持たせておきながら真剣に付き合わなかったときはさすがに黙っていられなかった。家族のような存在を傷つけられたんだから、当然だろ?」


平然とした顔で、薫さんは私の誤解を解いてゆく。

……ということは、芳樹社長に好きだった彩月さんを捕られたことに執心しているのではなく、芳樹社長の奔放な態度に怒ってたということ?

でも……。


「じゃ、じゃあ。こないだホテルで一緒にいらっしゃったのは……」
「それは、」


と薫さんが言いかけたとき、再び玄関のドアが開いた。
そこでようやく、薫さんは私の手を離した。手のひらはしっとりと汗ばんでいる。

ドアの細い隙間から人影が見えて、長瀬さんが戻ってきたのかと思ったけれど、違った。
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