嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
てっきり高速に乗ってマンションに戻るのかと思ったら、細い農道を少し山手に行ってすぐに停車した。
指のキスの余韻が、まだ全然さめないうちだった。


「着いたよ、うちの別荘」


エンジンを切り、車を降りた薫さんがさらりと言う。


「えっ、あの……お邪魔してもいいんですか?」


開けられた助手席のドアから、いそいそと身を縮こませながら私は降りた。

二階建ての別荘は森の中にひっそりと佇んでいる。近くに川が流れているのか水がせせらぐ音が聞こえ、涼しい夜風が色づき始めた広葉樹の葉を揺らしている。

きっとここでは自然に癒されながら心地よい時間を過ごせるのだろうな、と思った。

ライトアップされた門を通り過ぎ、玄関の扉を開ける薫さんの後ろに続く。


「素敵な建物ですね」


別荘の中はお洒落な木製の家具で統一され、穏やかな間接照明が降り注ぐ落ち着いた空間だった。
にっこり頷いた薫さんは、冷蔵庫から取り出したボトルを傾けてなみなみとグラスに注ぐ。


「一華が気に入ってくれたのなら良かった。ちょっと休んで行きたいんだけど、いいかな」
「はい、もちろん……」


グラスを受け取って、私たちは乾杯をするとほぼ同時にグラスに口を付ける。


「あの、薫さん」
「ん?」
「これ、お酒ですよね?」
「そうだよ」


平然と肯定され、私はがくんと拍子抜けした。

……ってことは、今夜はもうマンションには戻らないのだろうか。
リビングのソファに隣り合って座り、私は平静を装うのに精一杯だった。

だけど、どうしても一言、ちゃんと伝えたいことがある。
薫さんが花瓶に活けてくれたブーケを見て、決意するように大きく深呼吸をした。


「薫さん。今まで、すみませんでした」
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