嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「あの、社長はお好きなものってありますか? 食べたいものとか」


私は足を進めながら背の高い相手を見上げた。


「うーん、そうだな。基本なんでも食べるよ。好き嫌いとかないし」
「そうなんですか」


どうしよう。
だったら今夜の献立は私が得意なものでいいのかな。


「でも、もし食事のメニューを自分で選べるのなら、和食にするかな。焼き魚とか、煮物とか」
「煮物、ですか」


結構庶民的なものを食されてるんだな、と思って、ちょうど通りかかった八百屋さんの前で足を止めたときだった。


「あらぁ、薫くん! 久しぶりねぇ!
お父さん、お元気?」


エプロンをしたおばさんが店内からピューッと飛び出してきて、親しげに声をかける。

か、薫くん……?


「はい、お陰様で」


にっこりしながら薫社長は外行きっぽい温和な声で言った。


「こないだお兄さんも商店街歩いてたよ! 兄弟揃って本当に男前ねぇ〜!」


お兄さん、というフレーズに、薫社長の顔が一瞬ピクリと引きつったように見えた。
ニコニコと愛想よく微笑んで入るけれど、あまり目の奥は笑ってないような……。


「どうしたの? 一華」


突然顔を覗き込まれ、私はハッとした。
鼻先がぶつかりそうなくらいの至近距離で、しかも、初めて名前を呼ばれたのだ。〝一華〟って。


「体冷えてきた? 風が冷たくなってきたよね。そろそろ帰ろうか?」


私の動揺になど一切合切お構いなく薫社長は腰にそっと手を回し、エスコートするように促す。

優しくて気遣い上手な旦那様のような態度に、目をむいているのは私だけではない。
公衆の面前でいきなりイチャイチャされたものだから、おばさんは頬をぽっと赤く染め、私たちを凝視している。
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