嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
夕刻の風はたしかにいささか冷えてはきたし、なるべくボロが出ないように婚約者らしくしなきゃならないのかもしれないけれども。

いきなり密着し過ぎじゃないですか……⁉︎


「どど、どうしたんですか⁉︎ 社ちょ」
「今度から外でその呼び方したら、キスするよ」


下手に動いたら触れ合いそうな距離で囁かれ、私は驚きのあまり反射的に仰け反った。


「か、薫くん! それで、こちらの方は……?」


見ちゃいけないものを見てしまった、という複雑な表情を浮かべた八百屋のおばさんは、赤面する私を手で指し示す。


「僕のフィアンセの一華です。今後はこちらにひとりで買い物に来ることもあるかと思うので、よろしくお願いします」


薫社長はさらりと言い、また完璧な笑顔を周囲に振り撒いた。

じゃがいもと人参、玉ねぎなどを買うことにして、私たちは会計の間店先で待った。


「こ、こんな恥ずかしい思いをしたら、もうここにはこれないんですけど……」


満足げな表情で、ずっと手を握ったままでいる薫社長に私は堪らず小声で抗議した。


「恥ずかしいって……。これくらいのスキンシップで照れてたら身が持たないよ?」
「っ!」


片目だけをウインクみたいに器用に細めた薫社長は、慌てて顔を背ける私を見てクッと意地悪そうに笑う。

これ以上のスキンシップなんて、あるの⁉︎


「はい、お待たせ! じゃがいもサービスしといたよー!」
「ありがとうございます」
「毎度! また来てね!」


私が気まずい表情で頷く間に、買い物袋は当たり前のように全部薫社長が持ってくれた。
前から自転車が来たら、さっと立ち位置を移動して私を守るように歩いてくれる。
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