嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「あ、あのっ」


思わず引き止めた私に、薫さんは緩慢に振り向いた。


「ん?」
「今日はその、ありがとうございました。実家のこととか、レストランでのお食事とか……」
「どういたしまして。うまかっただろ?」
「は、はい、とっても」
「良かった」


満足げに微笑み、すぐにまたくるりと身を翻す。

……あれ?
なんか、全然大丈夫そうじゃない?

私は拍子抜けした思いで閉められた薫さんの部屋のドアを見つめた。

寝室の件、忘れたのだろうか。
それとも取り消し……?

都合よく考えて、私はいつものように先にシャワーを使わせてもらい、パジャマ姿で自室に戻った。
布団に座りボーッとしていると、ドア越しにリビングから足音が聞こえ、薫さんもシャワーかな、と思った。


『そっか……そういう温かい家庭を築くような年になったのね』


お母さんはきっと私がこんな風に、お互いの存在をドア越しに感じてるなんて思ってもみないだろう。
ラブラブで仲の良い、新婚夫婦だと思ったかなぁ……。

もらって来たかすみ草を花瓶に活けてテーブルに飾り、ぼんやりと見つめていたとき。

トントン、とドアがノックされ、うとうとしかけていた私はビクッと姿勢をただした。


「は、はいっ」
「一華、起きてる?」


ドア越しに響く、薫さんの声。


「はい……なんでしょう?」


私はその声のする方に近づき、なんの躊躇いもなくドアを開ける。すると。


「なんでしょう、って。 夜這いに決まってるだろ?」
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