嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
本当の婚約者なら、こんな風に悩んだりしないのかもしれない。
だって、愛されてる自信があるから。

契約妻になるからこそ、雇われていつからこそ、その分きちんと役割をこなさなきゃという気持ちが強い。


「着いたよ」


車が停車し、長瀬さんがドアを開けてくれる。


「わ、わあ……すごい……」


塀で取り囲まれた敷地内には、民家であることが信じられないくらいとても大きくて歴史がありそうな、白亜の建物がそびえ立っていた。

よく手入れされた庭も広く、立派な池があって敷地内が丸ごと文化的な価値がありそうだなと思った。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、すぐ終わるから」


圧倒されて立ち尽くしている私を取り残し、薫さんは颯爽とお手伝いさんが出迎える玄関に向かった。


「き、緊張するななんて無理ですよ……」


弱気な声で呟いて、私も薫さんのあとを駆け足で追った。
はぐれたら迷子にでもなりそうだ、と思ったからだ。


「お帰りなさいませ、薫様」


複数のお手伝いさんに仰々しく迎えられ、いよいよ櫻葉邸に足を踏み入れる。

お父様が療養されている部屋に向かう途中、私は押し潰されそうになる胸に耐えきれず、一歩前を歩く薫さんにこっそり話しかける。


「あの、お手洗いをお借りしてもいいですか?」
「ああ、いいよ」


緊張でカチコチになりながら、私は薫さんの案内で長い廊下を歩いた。


「ここだよ。隣の部屋で待ってるから」
「ありがとうございます」


薫さんが隣の部屋に入ってゆくのを見計らって、私は洗面台の鏡の前に立ち、溜め息を吐いた。
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