嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「勝手なことするなよ、兄さん」
「は? 勝手はどっちだ? おまえ、木塚研究所との共同開発の件、反故にしたそうだな」


芳樹社長がニヤリと顔を歪ませる。

先ほどまでの人あたりの良さの欠片もない、薄く笑った表情は冷ややかで怖いくらいだった。


「木塚は化粧品部門にとって大切な研究所なんだぞ。そんなんでグループを統括できんの?」


皮肉っぽく笑う芳樹社長を、薫さんが睨み見る。


「結婚するって連れてきたのって、この子?」


間に挟まれどうすることもできずにいた私は芳樹社長に顎で指され、ビクッと両肩を跳ね上がらせた。


「どうせ適当な子見繕ってって、長瀬にでも調べさせたんだろ? じゃないと俺に櫻葉のトップまで取られちゃう危険があるもんな。ま、いつも周りにいるような女とは違うタイプだけど、結構可愛いじゃん」


くつくつと嫌味を含んだ笑い方をする芳樹社長と目が合う。

温かみのない、ガラス玉のような瞳にゾッとした。


「あ、気を悪くした? ごめんね」


詫びるともつかない軽い調子で言い、芳樹社長はハンサムに私に笑いかける。

適当な子、見繕う……?
有り体に言えばそうかもだけど。契約なんだから。

でも、なんかそれを他人に言われるのはモヤモヤする。
分かってる、けど……。こっちの事情も知らないで。なんだか残酷っていうか。


「薫、まだ怒ってんの?」


なおも笑いを帯びた声で、芳樹社長がけしかけるように言ったとき。


「ああ、身体中が熱くなるほど怒ってるよ」


内に秘めた熱を鎮めるような、厳かな声だった。
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