嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
真っ直ぐ射抜くように芳樹社長を見つめる薫さんの瞳には、迷いや葛藤など微塵も窺えず、嘘のない透明感があった。


「なんだよ……あれは昔のことだろ」


薫さんの真剣な面差しに怖気付いたように声を震わせ、芳樹社長が言う。


「そっちじゃありませんよ」


ははっと乾いた声で笑い、薫さんはこちらに前進する。


「俺の婚約者に気安く触れるな」


そして、直立する私の腕を掴み、グイッと自身の懐へ引き込んだ。

とん、と薫さんの胸に体当たりした私は、ぽかんとしながらよろめく。


「気安く、って大げさだな。似合わないメイクしてるから手直ししてあげただけで。別にお前の婚約者に手ぇ出そうなんざこれっぽっちも考えてないから」


芳樹社長の呆れたような声に、心底同意したい気分になる。

私なんかに目もくれないだろう芳樹社長に気安く触るなだなんて……。
まるでお門違いだと思い、気まずい気持ちになったとき。


「俺のこと、狭量なやつだって思ってんのか?」


私を抱き寄せる腕の力とは裏腹に、薫さんはふっと穏やかにまつ毛を伏せ、優しい眼差しで微笑んだ。
それまでの兄に向けていた不遜なものとはまるで矛盾するような、甘やかな表情で。


「家でも外でも、妻を独占したいんだ」


……独占?

お兄さんの前でなに言ってんの……⁉︎
恥ずかしすぎる!

顔から火が出るほど熱くなる。
決まりが悪くて顔が上げられない。


「じゃあ、周年記念パーティーで」


薫さんが身を翻したタイミングで私も一緒に振り返る。
洗面所に取り残された芳樹社長は、顔を引きつらせて言葉を失っているようだった。
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